インナーブランディング・従業員エンゲージメント
更新日:
2025-06-12

従業員ロイヤリティとは?意味・課題・高める施策まで徹底解説

この記事を書いた人
Yuko Kobayashi
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目次

企業の持続的成長において欠かせないのが、従業員の「ロイヤリティ」です。単なる定着率や満足度では語りきれない、感情的なつながりや帰属意識が組織力の源泉になります。本記事では、従業員ロイヤリティの定義から、課題の兆候、向上施策、成功事例までを包括的に解説します。サーベイの結果に悩む人事担当者や、エンゲージメント強化を模索するマネジメント層にとって、具体的な行動に繋がるヒントとなる内容です。

従業員ロイヤリティとは

従業員ロイヤリティの意味と定義

従業員ロイヤリティとは、従業員が企業や組織に対して抱く「忠誠心」や「愛着心」、「信頼感」などの感情的なつながりを指します。これは単に働きやすい職場環境への満足感だけでなく、「この会社で働き続けたい」「自社の成長に貢献したい」といった主体的な関わりや帰属意識に根ざしています。

従業員ロイヤリティは、以下のような要素から構成されることが多いです。

  • 理念や価値観への共感
  • 上司や同僚との信頼関係
  • 職務を通じた自己成長実感
  • 報酬や評価に対する納得感
  • 将来のビジョンに対する期待

「従業員満足度(ES)」や「エンゲージメント」と混同されがちですが、それぞれの違いは明確です。満足度が「今この瞬間の働きやすさ」、エンゲージメントが「意欲的な働きぶり」であるのに対し、ロイヤリティは「長期的な信頼と愛着」に重きを置いた概念です。たとえば、職場に不満があっても企業理念に強く共感していれば、転職せず留まる選択をする人もいるでしょう。そうした深層的な感情が、ロイヤリティの核です。

近年では人的資本経営の重要性が高まり、企業と従業員の関係性を定量・定性的に捉え直す動きが進んでいます。その中で、ロイヤリティは企業の中長期的な価値創造における中核的なKPIと見なされつつあります。

ロイヤリティが企業にもたらす効果

従業員ロイヤリティが高まることによって、企業はさまざまな面で恩恵を受けます。代表的な効果は以下の通りです。

1. 離職率の低下と採用コストの削減

ロイヤリティの高い従業員は転職意向が低く、定着率も高くなります。これにより、頻繁な人材の入れ替えによる採用・育成コストの削減が可能になります。とくに慢性的な人手不足に悩む業界では、大きな競争優位となります。

2. 業務への主体性・創造性の向上

企業や仕事に対して誇りを持っている従業員は、自ら考え行動する意識が高くなります。ロイヤリティが高まることで、単なる作業ではなく、「自分ごと」として業務に取り組む姿勢が根づき、結果としてチーム全体の生産性や質の高いアウトプットに繋がります。

3. 顧客満足度(CS)の向上

従業員のロイヤリティと顧客体験は密接に関係しています。たとえば、接客業においては、従業員が組織に愛着を持って働いているかどうかが、言動やサービスの質に現れます。ロイヤリティが高い従業員ほど、顧客に対してポジティブな印象を与えるため、CS向上にも寄与します。

4. 企業ブランド価値の向上

従業員のロイヤリティが高い企業は、外部から「働きがいのある会社」として認識され、採用ブランディングや投資家からの評価向上にも繋がります。人的資本に注目が集まる昨今において、ロイヤリティの高さは、ESGやサステナビリティの観点からも重要な指標です。

関連記事:従業員モチベーションを上げるには?実践施策と成功事例を徹底解説

ロイヤリティが低い組織の兆候と課題

従業員ロイヤリティが低い状態は、単に「辞める人が多い」という表面的な事象にとどまらず、組織全体のパフォーマンスや職場文化に深刻な影響を及ぼします。以下では、具体的な兆候とそこから読み取れる課題を紹介します。

離職率が高止まりしている

従業員ロイヤリティの低さが最も顕著に表れるのが、離職率の高さです。とくに3年以内の早期離職率が業界平均を上回っている場合は、根本的な組織課題が存在している可能性があります。

たとえば、ある企業では毎年20〜30%の離職率が続いていたにも関わらず、「業界的に仕方ない」と分析を深めないままでした。しかし、詳細な退職理由を調査したところ、「会社の将来に不安がある」「成長実感が持てない」など、制度以上に感情的な共感や信頼の欠如が多く見られました。

このような場合、福利厚生や報酬をいくら整備しても効果は限定的であり、従業員の意識に根ざしたアプローチが不可欠です。

やりがい・愛着の欠如

サーベイや1on1などで「仕事にやりがいを感じない」「この会社で働き続けたいと思えない」といった声が見られる場合、それはロイヤリティの低下サインです。

特徴的なのは、業績や業務負荷の高さに直接の不満を抱いていないにもかかわらず、感情的なつながりが希薄なために「なんとなく辞めたい」という思いが醸成されているケースです。

定性的な声のなかには、次のような表現が含まれることがあります。

  • 「仕事は嫌いじゃないけど、この会社でずっと働くイメージが湧かない」
  • 「評価も悪くないが、自分がここにいて意味があるのか分からない」
  • 「成果を出しても、組織からのリアクションが希薄で孤独感を覚える」

これらの発言は、日常的なフィードバックや承認の不足、理念や目標の共有不足といった課題に結びついています。組織としては、こうした“沈黙の離職予備軍”の存在に気づき、早期の対話と関係性の再構築が求められます。

管理職のマネジメント力の差

部下のロイヤリティを大きく左右するのが直属の上司との関係性です。実際、「上司が理由で辞めた」という回答は、あらゆる業種・規模の企業で頻出しています。

具体的には、次のようなマネジメント課題がロイヤリティ低下の原因となります。

  • 評価基準やフィードバックが属人的で不透明
  • 対話の機会が少なく、感情の共有が難しい
  • 目標や方向性を示すリーダーシップが不足している

これにより、同じ制度のもとでも、上司のマネジメント力次第でロイヤリティの差が顕著に現れます。とくに中間管理職層は、現場と経営の橋渡し役であると同時に、日々の職場文化を形成するキーパーソンでもあります。

そのため、ロイヤリティ向上の鍵は「管理職の育成」にあると言っても過言ではありません。評価・育成制度にマネジメント力やエンゲージメントへの貢献度を取り入れる企業も増えており、今後は“人を動かせる力”が管理職の必須スキルとなっていきます。

従業員ロイヤリティを高めるための3つの施策

従業員ロイヤリティは、制度や仕組みだけでなく、日常のマネジメントや職場文化を通じて育まれるものです。ここでは、多くの企業が実践している代表的な3つの施策を紹介します。

表彰制度や報奨制度

表彰制度は、従業員の貢献や成果を可視化し、称賛する仕組みです。ロイヤリティ向上においては、単なる“モチベーション向上施策”を超えて、組織からの承認と信頼の表現として機能します。

重要なのは、「数値的成果」に限定せず、プロセスやチームワーク、理念の体現といった行動特性も評価の対象とすることです。たとえば、社内で共有されるバリューを体現した行動を月間MVPとして表彰するなど、理念との一貫性を持たせた設計が効果的です。

報奨の内容についても、金銭的インセンティブだけでなく、職場での表彰、社内広報への掲載、役員とのランチなど、**非金銭的な「特別な体験」**を加えることで、より感情的な満足や帰属意識を高めることができます。

また、こうした制度は「組織が自分を見てくれている」という感覚を育み、組織への信頼形成に寄与します。モチベーションが「やる気の引き金」であるのに対し、ロイヤリティは「継続して働きたい」という深い意志に根ざすものであり、表彰制度はその両方を支える役割を果たします。

1on1・定期的な対話の仕組み

定期的な1on1ミーティングは、従業員ロイヤリティを高めるうえで極めて有効です。上司と部下の信頼関係は、ロイヤリティの核とも言える要素であり、その構築には日常的な対話の質と量が不可欠です。

単なる進捗確認にとどまらず、次のような観点を含めた対話が理想です。

  • キャリアの希望や不安
  • 業務に対する感情や満足度
  • 自身の価値観や働く意義
  • 組織への提案や改善要望

このように、1on1を通じて「仕事以外の側面」にも上司が関心を寄せていることが伝わると、心理的安全性が高まり、従業員は組織に対してポジティブな感情を抱きやすくなります。

特に、組織にとって都合の良いフィードバックだけでなく、ネガティブな声にも耳を傾ける姿勢を見せることが、長期的な信頼の蓄積につながります。

組織理念やビジョンの浸透

理念やビジョンは、組織と個人をつなぐ「精神的な接着剤」とも言える存在です。企業の目指す方向性や存在意義に共感できる従業員は、仕事への意味づけが深まり、ロイヤリティが自然と高まっていきます。

ただし、単に朝礼や社内報で理念を掲げるだけでは浸透しません。インナーブランディングとして次のような工夫が求められます。

  • 行動指針への落とし込み:理念を行動ベースの評価項目に変換し、日常業務に結びつける
  • 体現者の可視化:理念を実践している社員を紹介し、ロールモデルとして社内に共有する
  • ストーリーテリング:創業ストーリーや顧客とのエピソードを通じて理念に血を通わせる

このように、理念やビジョンを“飾り”ではなく“行動の拠り所”として定着させることが、組織への一体感や誇りを醸成する力となります。

また、理念の浸透は評価制度や表彰制度とも連動させることで、より高い一貫性と納得感を持たせることができます。

関連記事:コミュニケーションでの伝達力がビジネスにおいても重要!構成要素やポイントなどを解説

ロイヤリティ向上のための成功事例・ベストプラクティス

従業員ロイヤリティの向上は、画一的な方法ではなく、業種や企業文化に応じた柔軟なアプローチが求められます。ここでは、IT業界とサービス業界における成功事例を通して、それぞれの現場でどのような工夫が実践されているかを紹介します。

IT企業における事例:Z世代向け施策とリモートワーク対応

近年、多くのIT企業ではZ世代(1990年代後半以降に生まれた世代)の新卒・若手社員の採用が進むなか、従来の管理手法が通用しにくくなっています。このような背景を踏まえ、ある中堅IT企業では、「自己決定感」と「社会貢献性」に着目した施策を展開しました。

具体的には以下のような取り組みを実施しています。

キャリアオーナーシッププログラムの導入

社員が自らキャリア開発の目標を設定し、半年ごとに振り返りを行う制度を導入。上司との対話を通じて自分の成長と会社のビジョンを接続する機会が増え、自己肯定感とロイヤリティが同時に高まりました。

リモートワーク下での「バーチャル表彰」制度

Slackや社内SNSを活用し、日常の貢献を可視化する「バーチャル称賛文化」を醸成。リモート環境でも承認やつながりが感じられるようになり、孤立感の軽減とロイヤリティ向上につながっています。

ESG活動との連動

ボランティア休暇制度やSDGsに関する社内アイデアコンテストを実施し、社会貢献と企業理念の一致を体感できる機会を創出。特にZ世代の価値観に響く取り組みとなり、「この会社で働く意味」への共感が強まりました。

これらの施策により、若手社員の離職率は前年比で約40%改善し、エンゲージメントスコアの向上も確認されています。

サービス業における事例:接客業におけるロイヤリティ向上とCSの連動

サービス業、とくに店舗型の接客業では、顧客満足度(CS)と従業員ロイヤリティが密接に結びついていることが特徴です。ある全国展開の飲食チェーンでは、ロイヤリティ向上を目的とした組織変革を数年前から推進しており、成果が可視化されつつあります。

主な取り組みは以下の通りです。

理念を体現する行動評価の導入

接客品質や売上だけでなく、「チームワーク」「気配り」「感謝の言葉」などを評価軸に取り入れた制度を導入。これにより、従業員が「自分の行動が理念と直結している」と実感しやすくなりました。

店舗ごとの「感謝の声可視化プロジェクト」

お客様から寄せられたメッセージや感謝の言葉を社内ポータルに共有。日々の業務が誰かの役に立っているという認識が高まり、働く意義や誇りにつながりました。

現場の裁量を尊重した仕組みづくり

各店舗におけるミニマネジメント制度を導入し、パート・アルバイトスタッフにも店舗運営の一部を任せることで、自律性と責任感が醸成されました。

こうした取り組みを通じて、従業員の「顧客満足に貢献している実感」が高まり、従業員ロイヤリティと顧客リピート率の双方が上昇。店舗ごとの離職率にも明確な改善が見られています。

ロイヤリティ向上施策の社内展開・経営層への説得材料

従業員ロイヤリティの重要性を認識していても、実際に施策を展開しようとすると「費用対効果が見えにくい」「経営層の理解が得られない」といった壁に直面することがあります。そのようなときには、エンゲージメントサーベイの活用人的資本経営の視点を持ち込み、「感情」を「数値」として見せることが効果的です。

エンゲージメントスコアの活用

従業員ロイヤリティの定量的な指標として、エンゲージメントスコアは非常に有効です。近年では、以下のような設問を軸にしたサーベイツールが多く導入されています。

  • あなたはこの会社に誇りを持っていますか?
  • 上司との関係性に満足していますか?
  • この会社で長く働きたいと思いますか?
  • 組織の理念に共感していますか?

これらの回答を定量化・時系列でトラッキングすることで、施策による変化を「見える化」できます。たとえば、1on1制度の導入後に「上司との関係性」スコアが向上していれば、因果関係を説明しやすくなります。

さらに、部門別や職種別でスコアの傾向を分析することで、重点的な改善領域や成功事例の抽出も可能になります。こうした可視化の結果をもとに、経営層に対しては以下のようなフレームで説得することが効果的です。

  • 現状分析(ロイヤリティの現状値とリスク)
  • 施策による改善傾向(スコアの変化と従業員の声)
  • 組織への波及効果(離職率・生産性・CS等への波及)

経営会議や取締役会においても、グラフや定量的資料があることで、感覚的ではなく経営指標としての妥当性を提示できます。

人的資本経営との接続

ロイヤリティ向上を一時的なHR施策ではなく、中長期的な経営戦略の一部として位置づけるには、「人的資本経営」の文脈での再整理が欠かせません。経済産業省の「人材版伊藤レポート」や、東証の開示要請(2023年以降)でも、従業員の働きがい・定着・エンゲージメントといった項目は人的資本開示の重要指標とされています。

ロイヤリティは、人的資本の「維持」と「育成」に直結する要素であり、以下のような経営指標と紐づけて説明することができます。

  • 離職率の改善(人材流出コストの抑制)
  • 生産性の向上(従業員の主体性向上による業務効率化)
  • 顧客満足度向上(接点における従業員の品質向上)
  • 採用ブランドの強化(ロイヤリティの高さ=企業文化の魅力)

また、ロイヤリティの高さは、「リスクの少なさ」と「投資の成果の安定性」を示す重要な非財務指標でもあります。こうした観点から、ロイヤリティは“従業員満足”という情緒的なテーマではなく、将来の企業価値を支える戦略資源であると位置づけることが重要です。

そのうえで、「短期KPI(サーベイスコア)」と「中長期KGI(人材定着率や評価・育成コスト削減)」の両方を整理し、フェーズに応じた施策の実行計画として落とし込むと、社内合意も得やすくなります。

まとめ

従業員ロイヤリティは、単なる満足度や定着率を超えた「企業と人の絆」です。その向上には、仕組みだけでなく、日々の関係性や共感の積み重ねが求められます。エンゲージメントスコアや人的資本の視点も取り入れながら、ロイヤリティを高める施策を組織全体で推進していくことが、これからの企業価値創造の鍵となるでしょう。

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