DX・業務効率化
更新日:
2025-06-12

サイロ化とは?企業組織の分断を防ぐ具体的な解消策と成功事例

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目次

組織内で情報共有や連携がうまくいかず、部門ごとに孤立してしまう「サイロ化」は、多くの企業で見過ごされがちな課題です。しかしこの構造が続くと、業務効率の低下や顧客体験の悪化を引き起こす原因になります。

本記事では、サイロ化の定義から原因、課題、解消方法、そして成功事例までを詳しく解説します。

サイロ化とは何か

サイロ化の具体的な対策を考える前に、まずはその本質を正しく理解する必要があります。企業組織で頻繁に使われる「サイロ化」という言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか。

サイロ化の定義と背景

サイロ化とは、企業や組織の中で各部門がそれぞれの目標や業務に集中するあまり、他部門との情報共有や目的の連携が断たれた状態を指します。「サイロ(Silo)」は本来、穀物などを保管する独立した貯蔵庫を意味する言葉であり、この比喩が示す通り、部門ごとに情報が閉じ込められ、外部と行き来しない閉鎖的な構造が問題となります。

このような構造は、特に製造業や金融業、公共機関、大企業といった、長年にわたり機能別の縦割り組織を採用してきた業界で顕著に見られます。たとえば、開発部門と営業部門、マーケティング部門とカスタマーサポート部門がそれぞれ独自のKPIや報告経路を持っている場合、それぞれの活動が独立しすぎて顧客情報や施策の一貫性が損なわれる結果につながります。

さらに、近年の急速な市場変化やデジタル技術の進展により、部門間の壁は従来以上に業務推進の足かせになっています。ビジネススピードと柔軟性が求められる現代において、サイロ構造を放置することは、競争力の低下を招く重大なリスクとなるのです。

サイロ化が生まれる原因

サイロ化は偶発的に起こるものではなく、組織設計や運用の中に潜む構造的な要因が複雑に絡み合って発生します。以下では、その代表的な原因を詳しく解説します。

組織構造の影響

多くの企業では、業務の専門性や効率性を高めるために、機能別の部門編成(ファンクショナル構造)を採用しています。たとえば、営業・開発・人事・経理など、役割ごとに分かれた体制です。一見すると合理的な構造ですが、部門ごとに異なるKPI(重要業績評価指標)や人事評価制度が存在することで、組織全体の目標よりも部門単位の成果が優先される傾向が強まります。

このような状況では、部門間の連携よりも「自部門の成果達成」が主眼となり、横断的な課題に対して非協力的になるケースが増えていきます。特にマネージャークラスにインセンティブが集中していると、部門の垣根を越える意識が希薄になり、サイロ化が組織文化として根づいてしまうことも少なくありません。

コミュニケーションの断絶

もう一つの大きな要因は、部門間のコミュニケーション不足です。たとえば、メールやチャットなどの情報伝達手段が部門内で閉じていたり、共通のポータルやナレッジ基盤が整備されていなかったりすることで、情報の流れが滞ります。

加えて、物理的に部署が離れていたり、拠点が複数に分かれていたりする企業では、相互理解の機会が少なくなる傾向があります。その結果、部門ごとの認識や価値観にズレが生まれ、お互いの業務に対する関心や信頼感が薄れる原因になります。

特に指示系統が階層的で、トップダウン型の意思決定が強い組織では、現場レベルでの横のつながりが築きにくくなるという課題も見逃せません。こうした状況が積み重なることで、サイロ化はますます固定化してしまうのです。

サイロ化がもたらす課題

サイロ化は「部門間の連携不足」という表面的な問題にとどまりません。中長期的に企業のパフォーマンスや競争力に大きな影響を与える深刻な課題を引き起こします。ここでは主な2つの観点から、その影響を解説します。

業務効率の低下

サイロ化が進むと、部門ごとに情報が閉じた状態になり、全社的な情報の流れが断たれてしまいます。その結果として以下のような業務上の非効率が発生します。

  • 重複作業の発生:たとえばマーケティング部門が調査した顧客ニーズを、営業部門が知らずに再調査しているケースがあります。こうした無駄は、時間とコストの両面でロスにつながります。

  • 属人化による対応遅延:情報が一部の人に集中している場合、その人の不在や退職によって業務がストップするリスクもあります。これはBtoBのプロジェクト進行において特に致命的です。

  • 業務フローの断絶:全体最適が考慮されず、各部門が自分たちのやり方で仕事を進めることで、連携ポイントでトラブルや非効率が頻発します。たとえば、開発部門と品質管理部門が異なる基準を使っていたことで、製品リリースが遅延するなどのケースが該当します。

これらは積み重なると、全社的な生産性の低下という形で表れ、企業の成長を鈍化させる原因になります。

顧客体験の分断

もう一つ見逃せないのが、顧客体験の質の低下です。現代の顧客は、複数のチャネルを横断しながら商品やサービスに接しており、部門間の連携が不十分な企業では、顧客にとって一貫性のない体験が生まれてしまいます。

  • 部門ごとに異なる対応:たとえば、ある顧客が営業部門に依頼した内容と、カスタマーサポート部門が把握している情報が異なっている場合、顧客は「この会社は情報が共有されていない」と感じ、不信感を抱くでしょう。

  • チャネルをまたぐ混乱:ECサイトで購入した商品に関する問い合わせが実店舗では対応できないなど、オムニチャネル戦略を採る企業ほど、サイロ化の影響が顕著になります。

  • 問い合わせ対応の遅れ:問い合わせをたらい回しにされたり、返答までに時間がかかることで、顧客満足度が大きく低下します。これがレビューやSNSでの評判悪化にもつながる恐れがあります。

こうした事態は、顧客満足度の低下だけでなく、解約率やリピート率にも悪影響を及ぼします。特にBtoC業界では、サービスの一貫性が競合との差別化要素となるため、サイロ化の解消が急務といえるでしょう。

なぜ今、サイロ化解消が求められるのか

サイロ化の問題は、これまで「業務の非効率化」や「部門間連携の欠如」として認識されてきましたが、近年はそれ以上に経営変革やDX(デジタルトランスフォーメーション)を妨げる本質的な構造的課題として注目されています。企業が競争力を維持・強化していくためには、部門間の分断を乗り越える「横の力」が不可欠になっているのです。

DXや変革の足かせになる

企業の多くは今、業務の自動化やクラウド移行、データドリブン経営といったDXに取り組んでいます。しかし、組織がサイロ構造のままでは、その取り組みは一部の部門にとどまり、全社的な変革に波及しにくくなります。

たとえば、マーケティング部門がCRMを導入しても、営業部門がそれと連動したツールを使っていなければ、顧客データは部門間で断絶されたままです。また、現場主導で始まったツール導入が経営層に共有されていなければ、戦略的なデータ活用は進みません。

サイロ化を放置したままDXを進めると、ツールが「使いこなされない」「効果が限定的にしか出ない」といった状況に陥り、変革の形骸化や投資効果の不透明化を招きます。全社最適を前提とするDXを成功させるには、まず部門横断での連携を促す仕組みの構築が不可欠なのです。

情報共有・意思決定のスピードを上げるため

市場の変化スピードがかつてないほど速くなっている今、「待つ経営」から「動く経営」へのシフトが強く求められています。顧客ニーズや競合動向に素早く対応するには、部門間でリアルタイムに情報を共有し、素早く意思決定を下せる体制が必要です。

サイロ化した組織では、情報が特定部門や担当者に偏っているため、経営判断が属人的になりがちです。また、報告や承認に時間がかかることで、チャンスを逸するリスクや、判断の遅れによる損失が発生することもあります。

こうしたリスクを回避するには、データや知見を部門を越えてオープンにし、誰もがアクセスできる状態にすることが重要です。サイロを解消することにより、経営判断のスピードと精度が大幅に向上し、組織の機動力も高まります。

関連記事:情報共有がビジネスにおいて欠かせない理由とは?できていない組織の特徴も解説

サイロ化を解消する具体的アプローチ

サイロ化は、単一の施策では解決できない複合的な組織課題です。構造・制度・文化・ツールのすべてに目を向け、多面的なアプローチを組み合わせることが重要です。ここでは実効性の高い5つの解消策を紹介します。

組織設計の見直し

最も根本的な対策は、組織構造そのものの再設計です。特に効果があるのが、部門横断型のプロジェクトチームの設置や、マトリクス型組織の導入です。たとえば新商品開発や業務改善などのテーマに応じて、営業・開発・マーケティング・カスタマーサクセスなどのメンバーを集めたチームを編成すれば、部門間の視点を融合させた意思決定が可能になります。

また、単なる組織変更にとどまらず、部門をまたぐ業務プロセス設計や、全社的なワークフローの最適化も併せて進めることで、実効性が高まります。

KPI・評価制度の統一

多くのサイロ化は、部門ごとに設定されたKPIやインセンティブ設計が原因です。したがって、横断的な目標の設計と、その達成に向けた評価制度の統一は不可欠です。

たとえば「顧客満足度」「解約率」「全体の売上目標への貢献度」など、全社視点での成果指標を設けることで、各部門が互いに連携するインセンティブが生まれます。特にマネージャー層に対しては、「部門間協働の質」を評価項目に組み込むことで、組織風土そのものの変革につなげることができます。

コミュニケーション施策の導入

物理的に離れていたり、専門領域が異なる部門間では、意図的にコミュニケーションを促進する仕組みが必要です。ここで活用されるのが、社内SNSやポータルサイトといった情報共有ツールです。

社内ポータルは、各部門のニュースやナレッジ、成功事例を可視化し、組織全体の知識資産として共有できます。加えて、チャットツールやビデオ会議ツールの活用により、非対面でもリアルタイムのやり取りが可能となり、部門間の距離を縮めます。

部門間ミーティングの実施

ツールだけでは十分な信頼関係は築けません。そこで有効なのが、定例の部門横断会議やワークショップの実施です。実務担当者やマネージャー同士が顔を合わせ、業務の目的や課題を共有する機会を定期的に設けることで、共通認識の醸成と関係構築が進みます。

形式にとらわれず、「お互いの部門の業務を理解すること」を目的にしたクロスレビューや相互研修の導入も効果的です。これにより、情報の背景や意図が共有されやすくなり、誤解や衝突の防止につながります。

データ・ナレッジの一元化

サイロ化を本質的に解消するには、データ基盤の統一とナレッジの共有環境の整備が不可欠です。営業支援ツール(SFA)、顧客管理ツール(CRM)、社内Wikiなどを統合・連携し、誰でも必要な情報にアクセスできる状態を作ることが重要です。

特に属人化が進んでいた業務においては、手順や過去事例をテンプレート化・文書化してナレッジベースに蓄積することで、業務の再現性と透明性が高まり、全社的な知見の底上げにつながります。

サイロ化解消に成功した企業事例

理論や方針だけでは、サイロ化の解消は前進しません。重要なのは、現場レベルでどう実践し、どのような成果を得たのかというリアルな事例です。以下では、2つの企業における取り組みから、学ぶべきポイントを紹介します。

製造業A社の改革事例

国内大手の製造業A社では、以前から部門ごとに目標や評価基準がバラバラで、業務プロセスの非効率や責任の押し付け合いが慢性化していました。特に設計部門と生産部門の間で情報共有が乏しく、製品リリースの遅延や不良率の上昇といった課題が顕在化していたのです。

そこで同社は、全社共通のKPI(例:納期遵守率や製品クレーム件数)を設定し、それを軸に部門横断型のワークショップを毎月開催。互いの課題や目標を共有する場を設けたことで、業務の重複や手戻りが減少しました。結果として、業務効率が約20%改善し、部署間の信頼関係も大きく向上したと報告されています。

IT企業B社の取り組み

急成長中のIT企業B社では、リモートワーク体制が進む中で、プロジェクトの進捗状況や社内ナレッジが部門ごとに分断されていることが大きな課題となっていました。開発部門が取得したユーザーデータをマーケティング部門が活用できておらず、施策に一貫性が持てないという問題が発生していたのです。

そこで同社は、社内ポータルとチャットツールを導入。プロジェクトごとのドキュメントやナレッジを一元管理することで、誰でも必要な情報にリアルタイムでアクセスできる仕組みを整備しました。導入後は、部門間の意思疎通が加速し、プロジェクト進行のスピードと精度が大幅に向上したといいます。

サイロ化対策を進めるための第一歩

どのような組織でも、いきなりすべてのサイロを解消することは困難です。だからこそ、最初の一歩は「見える化」と「意識の統一」から始めるべきです。

現状の可視化とギャップ分析

まず必要なのは、自社にどのようなサイロが存在しているのかを明確に把握することです。たとえば以下の観点で棚卸しを行いましょう。

  • 各部門の業務内容と役割分担
  • 部門間の情報共有手段と頻度
  • 使用しているツールの違いと整合性
  • 過去に起きた部門間の認識ズレやトラブル

このプロセスを通じて、どの部分が重複しているのか、連携にどんなギャップがあるのかが明らかになり、改善すべきポイントが浮き彫りになります。

経営層と現場の意識合わせ

現場の変革を促すには、経営層の強いコミットメントが不可欠です。トップが「全社でサイロ化をなくしていく」という意志を明確に示し、必要なリソースや制度改定を後押しすることで、現場は安心して動き始めることができます。

同時に、ボトムアップの意見も丁寧に拾い上げる必要があります。現場の実情を踏まえたうえで方針を決めることが、持続可能な組織改善の鍵となります。

関連記事:情報共有を効率化する重要性とは?業務スピードと組織力を高めるために今すぐ取り組むべき理由

まとめ

サイロ化の解消は、単なる業務改善ではなく、企業の変革力と競争力を高める本質的な取り組みです。まずは一つの部門、一つのプロジェクトから始めて、社内に変化の種をまくことからスタートしてみましょう。それがやがて、組織全体の進化につながる第一歩となるはずです。

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